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氷上回廊

人里に近い山林「里山」。その昔、人々は里山の木や枝葉を伐採し、日常生活に必要な燃料や肥料として利用してきました。しかし文明の発達に伴い、山から木材を切りだす必要性が薄れていきました。また里山の手入れをしていた地元住民の高齢化により、森の手入れをする人が減り、少しずつ整備が行き届かなくなり、放置された里山では、ナラ枯れ(カビによる伝染病)や虫病などの被害が拡大し、里山を構成する生態系が大きく変化しています。

このような里山の不健康化は、自然災害や獣害を引き起こすなど、地域住民にとって重要な懸念事項となっています。そこで丹波市では、平成27年に「丹波市木の駅プロジェクト」を発足。ボランティアメンバーらが、愛する丹波の里山保全に取り組んでいます。

丹波市木の駅プロジェクトとは?

「丹波市木の駅プロジェクト」は、平成27年9月に始まりました。市内の森林を保全し、森林資源を活用しながら豊かで健康的な地域の森林を次の世代へ受け継いでいき、地域の活性化につなげる市民主体の取り組みです。活動の内容は、人の手による整備が行われていない森林で、木の伐採や剪定を行い、そこで出た間伐材を「木の駅」と呼ばれるストックヤードに出荷します。木の駅に持ち込まれた木材は、軽トラック3杯(約1トン)を6,300円(内訳:3,300円の現金と3,000円分「地域共通商品券」)に交換します。

ストックヤードに集められた木材は、約1年から1年半かけて乾燥させ、薪ストーブや薪ボイラーの燃料として販売されます。
市内で薪を燃料として利用することで、石油などの化石燃料の消費を減らし、地球温暖化の原因にもなっているCO2の排出抑制にもつながります。これらの市民主体の取り組みを通して、森林を良好な状態に整備し、未利用材を地域の発展と地球環境の保全のため有効活用することを目的に、地産地消など地域の活性化を目指して取り組んでいます。

楽しみながら、森の健康を守っていく。

丹波市木の駅実行委員会 委員長
山内 一郎 さん

私がこの活動に興味をもったきっかけは、定年の3年前に参加したフォーラムです。

そこで全国各地で取り組まれている「木の駅プロジェクト」の存在を知り、身近な里山で作業ができ、そのうえ地域や人々のためになることに魅力を感じました。実際、森に入ってみると木の枝葉が重なり合い、太陽光が届かない暗い状態でした。木々たちも外から見るとなんともなさそうなのですが、一本一本を見ると、腐っていたり倒れそうだったりと深刻な状態のものもありました。

活動は、月に数回、自分のペースに合わせて里山に入ります。活動時期は体調面や虫などに刺される安全面も考慮して秋~春が中心となります。作業は一日に数本の伐倒と玉切り、ストックヤードへの出荷までを行います。

木の伐採や運び出しは体力もいりますが、便利な資機材も活用しこの活動をとても楽しんでやっています。山の香りや四季の景色、仲間との和気あいあいとした時間はとても充実しています。ストックヤードを整備し、薪の販売体制を作るなど地域の特色を活かした地道な取り組みを行い、活動をはじめて約3年経ちますが、ようやく地域の方にも私たちの取り組みが理解され始めたという段階です。

平地を歩くのと違い、山の中ですのでしんどいですが、自然に触れることでリフレッシュもできます。そして何よりふるさとのためになる。いいことづくめです。現在、女性も3名参加しています。どなたでも気負わず、一緒に森に入りましょう!皆様の参加を心からお待ちしていますよ!

人を信じてコツコツと。ご縁のなかで深まる知恵と心。

丹波市木の駅実行委員会 副委員長
池畑 美帆 さん

私がこの活動に参加するきっかけとなったのは、丹波で植樹活動をしたいと思ったことでした。

植樹をするためにはどうすればいいか情報収集していた時、ちょうど参加した山のフォーラムで現実を知ることになりました。
突きつけられたのは、山は荒れているということ、木を植えることよりもまず先に環境を整えなければならないということでした。

話を聞けば聞くほど、自然の中で住まう私たち一人ひとりが自分のあり方と向き合わざるを得ないところにきているんだという現実を知りました。危機感を感じ、手の届くところに突如現れた木の駅プロジェクトの取り組みにとにかく関わりたいという一心で実行委員会の活動に参加しました。活動に必要な知識とのこぎりの扱いを身につける「木の駅入門者講習会」の受講から、気づけばチェーンソーの取り扱いを学ぶ「チェーンソー特別教育」を受けることになっていました。

この活動をしていてご縁が広がったのはもちろんですが、私自身の考え方がすごく開けたことも大きな変化です。
以前、ストックヤードの薪が盗まれたことがあったんです。委員みんなで防犯カメラを設置するのがいいか、定期的に警備をするのがいいかなど意見交換したところ、はじめはストックヤードを監視するようなことばかりに気がいっていた議論も、そのうち誰からともなく、「盗りたかったら盗ってもいい。自分たちは自分たちの活動に自信をもって、コツコツやればいい。理解が深まれば盗もうなんていう人はいなくなる。」という声が出はじめ、結局防犯対策の話はなくなりました。

今の時代に薄れている、自分や他人を信じる心を教えてもらった貴重な出来事でした。地域によっては市民の手で里山を整備してコンサートをしたり、イベントを企画したりしているところもありますので、そういう情報も整理して今後提供していければいいなと個人的には思っています。

自然と共存する時間の中で得られるちょっとした“おばあちゃんの知恵袋”のようなものも、交流の中で自然と身につきます。そんな交流ができる丹波に、ぜひ訪れていただきたいです。

むやみに恐れるのではなく、正しく理解してほしい。

丹波市木の駅実行委員会事務局
丹波市地域おこし協力隊
天満 光 さん

多くの方が感じられている通り、山での伐倒作業には危険が伴います。

そして、どんなに素晴らしい想いで立ち上げた活動であっても、たった一回の事故ですべて台無しになってしまう、これもまた厳しい現実です。

そこで私たちは、せっかく立ち上がった活動を次の世代にしっかり伝えていくためにも、『安全管理』これをしっかり実行していこう!という想いで活動をしています。

まず参加を希望される方には「木の駅入門講習会」を必ず受けていただきます。ここでは、里山に対する基本的な知識や安全管理を学びます。また、のこぎりの扱い方を中心に実際に木1本を伐って伐倒の要領を学びます。

そして何度か共に活動した後に、希望者には『チェーンソー特別教育』を受講していただきます。こちらは林業のプロの講師にきていただき実践的なチェーンソーの扱い方を学びます。もちろんこの時も木1本を伐って、実際に使えるようになるまで、何度も練習し、安全に作業ができるよう教育を行います。このように安全に配慮しながら活動した結果、大変ありがたいことに、この4年の間に大きな事故は一件もなく活動を継続しています。

ぜひ、この活動を広げ、時にはバーベキューやダッチオーブン、山菜取りなど、山でしか体験できない楽しみを交えながら、この美しい丹波の森を子どもたちにしっかり伝えていけるよう活動を続けていきたいと思います。ご興味ある方はぜひ一緒に森に入りましょう!

◎「木の駅入門者講習会」、「チェーンソー特別教育」について詳しく知りたい方は、木の駅プロジェクトホームページをご覧ください。

丹波市木の駅プロジェクトのホームページ

里山保全活動の1日

丹波市木の駅プロジェクトのメンバーによる里山保全活動の1日を紹介いたします。これらの活動では、暑さや虫をしのげる秋から春に月に数回行われ、主に立木を切り倒す「伐倒」と切り倒した木の幹を決まった長さに切る「玉切り」、木材が集められているストックヤードへの出荷までを行なっています。

1伐倒
立木を切り倒す作業
  • 1.伐倒することになった樹齢50~60年のコナラの木にスローロープという器具を使って、木の幹にロープを掛けます。

  • 2.木を倒したい方向へロープを渡します。

  • 3.木を倒したい方向にある太い木の幹にロープを掛けて引っ張り、その方向へ倒れるように誘導します。

  • 4.倒したい方向の幹にチェーンソーで「受け口」と呼ばれる切れ込みを入れます。

  • 5.受け口の反対側の幹に「追い口」と呼ばれる切れ込みを入れ、木がゆっくりと倒れるようにします。

  • 6.木がメキメキと音を上げながら倒れ始めました。

  • 7.轟音を響かせ、ホコリを舞い上げながら木は倒れました。

  • 8.無事に切り倒された木

2玉切り
切り倒した木の幹を均等な長さで切る作業
  • 1.切り倒した木の枝をはらっていきます。

  • 2.枝をはらった木材をウインチを使って平坦なところまで移動させます。

  • 3.木材をメジャーで測って一定の長さの印をつけていきます。

  • 4.印の部分をチェンソーでカットしていきます。用途に応じて、40cm・100cm・200cmの3種類あります。

3出荷
カットした木材をストックヤードへ出荷する作業
  • 1.手鉤を使って木材を集積場所まで運びます。

  • 2.集積場所に木材を積み上げていきます。

  • 3.集積された木材

  • 4.軽トラックで木材をストックヤードまで運搬します。

本取材は平成30年11月に行われたものです。
現在の取組内容や取引価格については下記をご覧ください。
「丹波市木の駅プロジェクト」