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氷上回廊氷上回廊

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氷上回廊

氷上回廊とは

氷上回廊とは

生き物と生物多様性

南国と北国の川魚が入り混じる水辺。南国の植物と雪国の植物が出会う森。
ここはいつも生きものたちが交わり、駆け抜ける場所。

多種多彩な生きものたちは私達の暮らしを豊かに支えてきてくれましたが、
その森や水辺が衰退の危機にさらされている今、私たちは…

瀬戸内海側と日本海側、異世界の魚が出会った!

太平洋(瀬戸内海)側と日本海側に大きく分断された川魚たちの世界では、それぞれの地域で独自の進化や適応が起きてきたと言われています。

ところが、1958年頃、現在の兵庫県丹波市青垣町の佐治川(加古川上流域)で不思議な“発見”がありました。 日本海側の河川に生息するといわれていた川魚『ヤマメ』が、瀬戸内海側の河川に生息する『アマゴ(ヤマメの近縁種)』 と混生しているのが見つかったのです。
魚たちは氷上回廊(ひかみかいろう)を通り抜けて、瀬戸内海側と日本海側の境界線(中央分水界)を越えていたのです。

氷上回廊の低地帯では、かつて瀬戸内海側へ流れていく川と日本海側へ流れていく川とが洪水のたびに入り混じっていました。また、地殻変動の影響で流れが逆転したところもありました。 その結果、瀬戸内海側と日本海側の二つの世界で進化してきた魚たちが、この入り混じった水の中で頻繁に出会い、相互に広がっていったのです!

南方系(瀬戸内海側)の魚(オヤニラミやイトモロコ、ナガレホトケドジョウなど)は北の由良川に、北方系(日本海側)の魚(ホトケドジョウやアブラハヤ、ミナミトミヨ(※今は絶滅)など)は 南の加古川に分布を広げました。

その結果、ホトケドジョウとナガレホトケドジョウ、アブラハヤとタカハヤなど、本来南と北で別々に暮らしていた近縁種同士が同じ河川で共存する、とても珍しい水域となっているのです!

  • オヤニラミ
  • ナガレホトケドジョウ
  • ホトケドジョウ
  • アブラハヤ

気候変動を駆け抜けた植物たち

水の中だけでなく、陸の生きものたちもこの氷上回廊を南北に駆け抜けてきました。低地に暮らす植物たちにとって、高い山々に登ることは容易ではありませんが、氷上回廊は標高95mで本州をまたげる低地帯です。

太古の昔から、地球は寒冷な氷河期と温暖な間氷期(かんぴょうき)という気候の変動を繰り返してきました。 その気候変動のリズムにあわせて、植物たちもこの氷上回廊を北から南へ、南から北へと駆け抜けていたのです!

氷上回廊を取り巻く地域では、今もなお南国に栄えるカナメモチやリンボク、ヤマモモ、モチツツジなどと、雪国に栄えるユキグニミツバツツジやエゾエノキなどとが豊かに混在しています。2010年、兵庫県下で70年ぶりに再発見されたシロシャクジョウも、そんな南部の花のひとつです。

太古の気候変動はこの地域に多種多彩な植物をもたらし、現在の豊かな森や水辺を生み出したのです!
多様な植物たちを追いかけて、さらに多様な生きものたちが同じ道を駆け抜けました。
小さなキノコや昆虫達から、大型の動物たちにいたるまで…
その中には私たちのご先祖、旧石器時代の日本人の姿もあったのです。

  • アズマイチゲ
  • クマガイソウ
  • 節分草
  • 苔の森

生物多様性と暮らしのつながり

生きものが多様であることを生物多様性(せいぶつたようせい)といいます。 氷上回廊周辺の地域は、近畿地方でも有数の生物が多様な地域です。

生物が多様な地域ということは、森や水辺も豊かである、と言い換えることができます。 そして、生きものが豊かな土地は豊かな水を生み、豊かな土壌を生み、いろんな美味しい食べ物を育みます。さらに、様々な生活資材を提供し、色彩豊かな自然景観や音風景で私達の心を潤し、地域に根ざした多様な技術や文化、芸術を生み出してきました。私たちの心豊かな暮らしは、豊かな生物多様性によって育まれたのです。

豊かな森には、厳しい気象の影響を緩和する力もあります。
叩きつけるような激しい雨や風は、森の草木が幾層にも広げる枝葉のおかげで地面に届くときには細かい雨粒ややわらかい風になります。

豪雨は豊かな土壌が吸収して洪水を緩和しますし、日照りには土壌が蓄えた豊かな水が、ゆっくり大地を潤し続けてくれます。

また、例年より暑い年には暑さが得意な生きものが活躍し、寒い年には寒さに耐えられる生きものが役割を担います。
雨、雪、旱魃(かんばつ)、病害等、様々な環境要因に対して、生きものたちが互いに補い合うことで、森は森として、水辺は水辺として、豊かな姿を保ち続けることができるのです。

氷上回廊を取り巻く地域は、そんな生物多様性の強さに恵まれてきました。

現代の地球温暖化と生物多様性

その森や水辺が、今、地球温暖化に直面しています。
太古の気候変動、たとえば一番最近の氷期から間氷期(かんぴょうき)に向かう温暖化のスピードは、約1万年間に平均気温が4~7度上がるくらいだったと考えられています。 ところが現代の地球温暖化は最近100年間にすでに平均気温が約0.7度上昇していて、さらに今世紀末までに2度から6度上昇する恐れがあるというのです。
果たして、生きものたちは、そして私たちはこの猛烈なスピードについていけるのでしょうか? 注意深く考えなくてはいけません。

一方で、地球温暖化の原因とも考えられる二酸化炭素などの温暖化ガスについては、こんなことがいわれています。
日本は1997年の京都議定書(※)の中で「1990年度を基準に二酸化炭素排出量を6%減らす」という目標を立てました(当時)。
その中で日本の森林は「マイナス3.8%の新たな吸収を担い得る」と国際的に認められました。
つまり、豊かな森には 温暖化ガスを吸収して気候変動を緩和する潜在能力があるのです。

2015年12月に開催された「気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」では、産業革命以前と比べて世界の平均気温の上昇の2℃を十分に下回る1.5℃未満に抑制するための取り組みを推進するという長期目標などを掲げた「パリ協定(※)」が採択されています。

日本でも2016年6月に「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、2030年度の削減目標(2013年度比26.0%削減)の達成に向けて、温室効果ガス削減の取り組みが全国的に行われています。

もちろん、私たちは様々な環境破壊を減らすためにも、資源を浪費する暮らしや社会を改めて温暖化ガスも減少させる努力が不可欠ですが、気候変動の防止や緩和という視点でも、もう一度、森のことをしっかり考える価値がありそうです。

※1997年12月11日、京都市で開かれた「気候変動枠組条約第3回締約国会議」で議決した議定書のことを京都議定書といいます。
※気候変動枠組条約に加盟する全196カ国・地域が協調して温室効果ガスの削減に取り組む初めての枠組み。各国5年ごとに温室効果ガスの削減目標を国連に提出し、対策を進めることが義務づけられており、2020年からこのルールに沿った取り組みが進められます。