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氷上回廊

ホトケドジョウ

ホトケドジョウを守る
Protect Lefua echigonia

「ホトケドジョウ」は、里山の谷から流れ出る冷水の小さな溝や湧き水の出る湿地、流れの緩やかな小川を好み、氷上回廊の加古川水系と由良川水系の両方に生息する淡水魚です。

かつて1種類だと思われていたホトケドジョウですが、専門家や地域の人たちの地道な調査によって、生息環境の違いや微妙に異なる外見、DNAの違いが判明し、とてもよく似た「ナガレホトケドジョウ」の2種類いることが分かりました。

しかし、時代の流れとともに土地開発などが行われ、湧き水が枯れてしまい、ホトケドジョウが生活できる自然環境は
どんどん失われてしまいました。現在のところ兵庫県内では、丹波市内の数カ所でしか生息が確認されていません。今では全国的にも個体数が減少していて、環境省レッドリストでは、絶滅危惧IB類(EN)、兵庫県版レッドデータブックではAランクとなっているなど、このままでは絶滅してしまう恐れがある魚となっています。

ホトケドジョウの名前は、吻(ふん(口))が尖っていない優しそうな顔立ちに由来しているとも言われています。2006年にそんな愛嬌のあるホトケドジョウの姿に惚れ込んだ有志が集まって「丹波地域のホトケドジョウを守る会」を設立し、ホトケドジョウについて様々な調査や保護、啓発活動を積極的に展開しています。

冷たい湧き水を好む2種類のホトケドジョウとは?

「ホトケドジョウ」は日本の固有種の魚で、青森県を除く東北以南の本州に生息し、生息地としては、兵庫県丹波市の加古川水系が最も西側に位置します。

成長すると全長は約6cm、口ヒゲが4対8本、体全体に小さい暗色点があり、吻(口)が尖ってなく太短い体が特徴で、湧き水のある湿地や水の澄んだ流れの緩やかな細い川などに生息しています。川底や泥にはあまり潜らず、水草や石の間をゆっくりと泳ぎながら、水生昆虫や藻類などを食べます。

ホトケドジョウの稚魚(約7mm)

稚魚を発見

よく似た仲間の「ナガレホトケドジョウ」は、目から吻(口)にかけて明瞭な暗色の斜め線があり、ホトケドジョウよりヒゲが長く、体型が細く、目の形状が違うことや、川底が砂や泥でなく大・小の礫(れき)がある生息環境を好むことが知られています。2種類のホトケドジョウは近縁種※1でありながら、交配することはない生殖隔離※2の状態にあると言われていますが、現在もその調査や研究が進められています。

産卵期は3~6月で、水が淀んでいるところの水草や枯れ葉などに卵を産み付けます。そして、1~2日で孵化した稚魚は、動物性プランクトンなどを食べて大きくなります。

この2種類のホトケドジョウに共通しているのは、冷水や湧き水の澄んだところに生息していることです。生息する水域の源流周辺の水温は、夏でも最高16℃という冷たさです。丹波市には、このような湧き水がある場所がたくさんあり、人の手が入っていない原風景とともにホトケドジョウが生きていける豊かな環境が残されていますが、開発や土砂流入、湧き水の枯れなどの周辺環境の悪化により生息場所が狭められており、その生息環境の保全と種の保護が急がれています。

※1近縁種
生きものの分類で、近い関係にある種。
※2生殖隔離
交配可能であった生きものが異なる環境で生息するようになり、時間の経過とともに交配する機会が失われ、遺伝的な変化が起こり、別の種類の生きものになること。

ホトケドジョウとドジョウの違い

 

ドジョウ(一般的によく見られるドジョウ)

ホトケドジョウ

形態的な特徴

円筒形の細長い形
5対(10本)のヒゲ(3対は上唇)
10cm~15cm程度。
体色は淡褐色や茶褐色などで、腹面は淡い。
円筒形の細長い形、太短い。
4対(8本)のヒゲ(3対は上唇)
6cm程度。
側線はなく、体色は黄褐色や茶褐色など。
体に暗色点が散在。

生態的な特徴

産卵時期は4月~7月頃の夜間、水田などの浅い泥底の水たまりのような場所に産卵。
水生昆虫や藻類などを食べる。
産卵時期3~6月、水草や枯葉などに卵を産みつける。
水生昆虫や藻類などを食べる。

生息状況

水田や農業水路、ため池、湿地などゆるやかな泥底に生息。
勇水周辺の水草が生い茂る湿地や流れの緩やかな砂泥質の環境を好む冷水性の魚。
水草の間などを泳ぎまわることが多い。

分布

ほぼ日本全土に生息。

青森県を除く、東北以南の本州から兵庫県まで生息、丹波市の加古川水系が西限。(兵庫県では、丹波市のみ生息が確認されている。)

地域をあげてホトケドジョウを守っていく

2006年に、愛嬌がある顔立ちのホトケドジョウが数を減らしていくのを危惧した有志が集って設立した「丹波地域のホトケドジョウを守る会」の発起人であり、現在はその代表と、兵庫陸水生物研究会会員や自然観察指導員を務める山科(やましな)ゆみ子さん(丹波市柏原町在住)に、会の設立のきっかけやその活動についてお伺いしました。
Q1
「ホトケドジョウ」との出会いについて教えてください。

子どもの頃から自然や生きものが大好きで、大人になっても趣味で仲間と一緒に山登りなどをしていました。青垣町に魚類や昆虫、野鳥などの生きものについて学べる施設「いきものふれあいの里」を設立する際に、準備員にならないかと声をかけていただいたのが、この世界に入るきっかけとなりました。

そうした中で、1992年に「兵庫県立人と自然の博物館」が設立されるのにともなって、細谷和海(ほそやかずみ)氏(現:日本魚類学会会長、近畿大学名誉教授)が河川ごとに生きものの調査をされており、そのお手伝いをしたのが「ホトケドジョウ」との出会いです。

私は元々、川の生きものが好きで、先生方からもっと勉強してみないかと誘いを受け、何年間か一緒に調査へ連れて行ってもらい、様々なことを学び、教えていただきました。
Q2
「丹波地域のホトケドジョウを守る会」設立のきっかけは?

設立は2006年です。それまで田中哲夫(たなかてつお)氏(元兵庫県立人と自然の博物館主任研究員)と11年間、ため池や川の調査をご一緒させていただいて、その傍ら、ホトケドジョウの見守りをしていました。その後、個体数がだんだん少なくなってきたのを実感し、このままでは危ないということで、河合雅雄(かわいまさお)氏(現:兵庫県立人と自然の博物館名誉館長)や田中哲夫氏、有志に相談し、ホトケドジョウの調査や保護を目的とする団体を設立しようということになりました。しかし、ホトケドジョウを密かに採捕しようとするマニアもいることから、当初は公表せずに設立を進めていきました。

現在では、保護管理の体制が出来上がっていることから、水環境の良い丹波地域(生息地域の住民の方々など)にこんな貴重な魚がいることを知ってもらうために、普及啓発に重きをおいた活動をしています。また、現状では、私たちだけでは守りきれないと感じているため、「ホトケドジョウを守る」ということを一番に考えています。
Q3
「ホトケドジョウ」と「ナガレホトケドジョウ」の2種類いることが 分かったいきさつは?

「ナガレホトケドジョウ」という名称は、細谷和海氏が名付けました。細谷和海氏が、標本を用いて生きものの分類上の所属や種名を決定する同定作業をされていて、勉強になるからということで、私もそこで一緒に勉強させていただいていました。その頃に、細谷和海氏からちょっと変わったホトケドジョウがいるとの話を伺いました。当時の図鑑では「ホトケドジョウ」は1種類しか記載されておらず、もしかすると里で生きるホトケドジョウと、山の中で生きるホトケドジョウは種類が違うのではないか、という指摘がありました。

各個体を確認してみると、やはりちょっと違うということで、調査をしようということになりました。そして「ナガレホトケドジョウ」の存在を決定付けたのは、春日地域での調査です。里にある池は「ホトケドジョウ」がいて、その横の沢をずっと上がっていくと「ナガレホトケドジョウ」がいました。よく調べたら生息環境が全く違い、「生殖隔離※2」が起きていることが分かりました。DNAも調べてみると2種類あることが分かりました。
Q4
会の活動について教えてください。

2006年2月に設立して、今年で12年目を迎えます。現在メンバーは20名で、全員ボランティアで活動しています。活動費は、会員からの年会費1,000円と企業や神戸市立須磨海浜水族園などからの助成金で運営しています。調査に必要な最低限の機材は助成金で購入させて頂いていますが、助成金がなかった頃は自費で購入していました。主な活動としては、毎月のフィールド調査と生息地の造成、保全、普及啓発活動を行っています。

また、2012年からの神戸市立須磨海浜水族園と共同で保全活動を行い、毎月の調査にも参加していただいています。

調査は毎月、丹波市内に数カ所点在する生息地を巡回して行います。冬季の積雪等で無理な場合もありますが、設立以来欠かさず行ってきました。内容は、生息地ごとに、日時、天候、水量、水温、水質の調査、また、タモ網で定点採捕した個体の数と大きさ、採捕場所、さらにその他の生きものなどを写真撮影とともに記録しています。これらの記録を積み重ねていくことで、個体数の増減や生息地の環境の変化などが分かるわけです。

大雨が降ると土砂が流れ込み生息地が埋まってしまうので、土砂をかき出したり、石積みで補強するなど補修作業も行います。また、産卵・孵化の時期には産卵場所となる淀みを作るなど、生息地の保全が欠かせません。ここ数年を見ると、個体数は何とか維持できていると感じていますが、これらの活動をやめると絶滅してしまう恐れがあります。また、生息地の一部に泥が流れ込んで水深も浅くなり、水漏れがひどく、いずれ潰れそうなところもあります。生息地が壊れて、ホトケドジョウが全滅したりしないように「危険分散」という方法をとっています。これは、水系ごとに現在の生息地と同じような環境条件のビオトープなどに個体を移入するというものです。分散は、由良川水系では企業の社会貢献活動として、日本の国蝶であるオオムラサキの保護・育成で知られる住友ゴム工業株式会社市島工場のビオトープ、また、加古川水系では丹波少年自然の家のビオトープで実施され、各分散地では個体が定着し、世代の交代が確認されています。

★丹波少年自然の家のビオトープ等の採捕や個体の持ち出しは禁止されています。観察だけに留めるようにしましょう。
 丹波少年自然の家で水槽飼育しているホトケドジョウは見学可能です。

Q5
「ホトケドジョウ」の未来について、考えをお聞かせください。

これまでの「丹波地域のホトケドジョウを守る会」の保護活動だけでは、無理な部分が出てきたと思っています。数年前から河合雅雄氏より市の天然記念物の指定を受けてはどうだろうかというご意見をいただいています。ただ、天然記念物の指定にはメリットとデメリットの両面があって非常に難しい部分があると感じています。ホトケドジョウの場合は、ある程度は人の手を入れてあげないと絶滅してしまう可能性が高いため、生息地域の住民の方々、私たち守る会、そして行政の方にも入っていただいて、3者協働で保護・保全できる形がとれたらいいなと思っています。
もう一つは、教育現場への啓発です。地域をあげて保護・保全しようとすると地域に住む子どもたちへの啓発は欠かせません。小学校などでは、環境学習の一環としてホトケドジョウの飼育をして頂いているほか、観察会や講演会などを実施したり、パンフレットを配布しています。また、紙芝居を作って小さい子どもたちにホトケドジョウのことを知ってもらう活動も行っています。この活動には学校の協力が必要で、もう少し広げることができたらと思っています。幸いにも昨年末より生息地の調査に、兵庫県立柏原高等学校の理科部の生徒の皆さんや顧問の先生に同行して協力して頂くなど、少しずつですが教育現場への啓発も広がりを見せつつあります。

なぜ、そんなにホトケドジョウが大事なのかと言うと、ホトケドジョウは「氷上回廊」と密接に関係しているからです。「ホトケドジョウ」と「ナガレホトケドジョウ」が2種類いることが見つかった時の調査で、色々な地域を専門家が調べたのですが、兵庫県内の生息地は、丹波市内の数カ所しか確認されていません。ホトケドジョウは今から200万年前にこの地に入ってきたと言われており、宮崎淳一(みやざきじゅんいち)氏(現:山梨大学教授)によるDNAの調査では、丹波市内の数カ所に生息するホトケドジョウの遺伝子は、加古川水系と由良川水系に分断されているにも関わらず、その出所は全て同じということです。太古の昔から、この地で生きてきたホトケドジョウの仲間たちは、気が遠くなるような時の流れの中で、加古川水系と由良川水系に分かれた現在も、絶滅の危機にさらされながら一生懸命に生きています。ここより西には、ホトケドジョウは生息していません。この事実をもっとたくさんの人に知って頂くことが、私たちの使命だと思っています。

兵庫県立柏原高等学校理科部の皆さん

★まだ、他の場所にも生息している可能性がございます。
「ホトケドジョウを見たことがある」、「ホトケドジョウを発見した」などの情報をご連絡ください。

連絡先:丹波の森公苑 森づくり課 0795-72-5165